低PER銘柄への投資は高いリターンを生む
株価の上昇には、様々な要素が関わってきます。長期的には株価は名目GDP成長率と相関しますので、成長力の高い国(企業)ほど、株価の上昇余地は大きい訳です。
しかし実は、それだけで投資対象を選ぶには不十分です。株式投資のリターンには、購入時の割安性(バリュー)も大きく関わってきます。突き詰めれば、株式投資は「安く買って高く売る」ことで利益を生むのですから、割安性が重要な事は、直感的にも理解出来るでしょう。
株式投資で割安株を選択する基準として、最も有名なのが「PER(Price Earnings Ratio・株価収益率)」です。現在の株価が、一株利益の何倍に当たるかを表す指標です。では実際に低PER投資は、高いリターンを生むのでしょうか?
当サイトで何度も紹介している、ジェレミー・シーゲル著の「株式投資
第4版
」に、PERと株式リターンの相関を研究した有効なデータが掲載されています。それによると、PERと株式リターンには逆相関・つまりPERが高い企業への投資利回りは低く、PERが低いと利回りは高くなる傾向がはっきりと出ています。
S&P500銘柄のPER毎のパフォーマンス(1957〜2006年) |
PER分類 |
年率リターン |
標準偏差
(リスク) |
累積金額
(元本1000ドル) |
最低 |
14.30% |
15.5% |
$697.237 |
低 |
13.52% |
15.8% |
$499.942 |
中間 |
11.11% |
14.6% |
$174.307 |
高 |
10.04% |
15.0% |
$108.495 |
最高 |
8.90% |
18.8% |
$65.354 |
S&P500全体 |
11.13% |
16.5% |
$176.134 |
※注;5つのリターン合計がS&P500平均と食い違うのは、S&P500が時価総額加重平均によって算出される為、割高グループの比率を高く、割安グループの比率を低く合算する傾向になることが原因です。
S&P500銘柄をPER別に5分類に分けた場合、最も割安な分類では年率14.3%を記録し、50年間の累計リターンではS&P500の約4倍にもなっています!逆にPERが最も割高な分類では、最も割安な分類の1/10程度のリターンしか上げられていません。
アメリカの大型株を網羅するS&P500指数において、50年分という長期分析から導き出された答えですから、割安株の有効性を裏付ける最高のデータといえるでしょう(アメリカ株式市場の平均PER推移)。
低PER投資戦略の問題点
データからも圧倒的な優位性が示された低PER投資ですが、実行する上では問題点もあります。PERは企業の毎期の最終利益をベースに算出されるので、業績による変動が激しく、企業の状態を正しく反映するとは限らないからです。
分かり易い例として、コマツの2年前と1年前の業績データを比較してみます。売上高ベースではわずか9%の下落なのに、最終利益は60%超の減益となっています。株価が同水準だとすれば当然PERも6割超も割高になりますが、売上高ベースで考えるとそこまで割高になった訳ではないのは一目瞭然です。
年度 |
売上高 |
当期利益 |
一株利益 |
株価1500円
でのPER |
2008年3月期 |
2兆2430億円 |
2088億円 |
209.87円 |
7.1倍 |
2009年3月期 |
2兆0217億円 |
788億円 |
79.95円 |
18.8倍 |
変動率 |
▲9% |
▲62% |
▲62% |
▲62% |
さらに酷い例として、トヨタ自動車は一昨年は2兆円近い利益を出していたのに、昨年は4千億円を超える赤字に転落しました。売上高では22%ほどの減収で、しかも急激な円高による為替差損の影響が大きかったので、実際には経営が傾くようなダメージではありません。しかし昨年は赤字なので、PERはマイナス・・・投資価値無しという判定になってしまいます。
2008年のような金融危機下では、PERによる割安株の判定は意味をなさないケースも出てくるのです。こういった特殊な時期には、企業の利益ベースで判定するPERよりも、企業の財産ベースで判定するPBRを使った方が、より正確な判断が出来る傾向になります。
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