為替レートが円高になる理由
外国株投資をする上で、考えずにはいられないのが為替レートです。円高の時期に投資をして、円安の時期に利益確定をすれば、株価上昇と為替差益の2重の利益が得られるので有利です。しかし為替レートの変動は、1つの理論だけでは証明出来ないほど、複雑怪奇なものです。そこで基本事項として、アメリカドルに対する為替レートが、どのような理由で円高が進むのかをまとめてみました。
■経済成長
為替レートの根本にあるのが、その国の国力に比例することです。経済成長の豊かな国の為替レートは切り上がり、成長力に乏しい国の為替レートは切り下がる傾向にあります(バラッサ・サミュエルソン効果)。高度経済成長期の日本の円高、また近年の人民元の切り上げ(※1)も、経済成長と為替の上昇がリンクしていることの証拠です。
■貿易黒字
日本では2001〜10年の10年間、平均で7.7兆円の貿易黒字を上げています(※2)。貿易黒字が増加すると、円高圧力となります。日本ではオイルショックで輸入が増大した1970年代を除き、全て貿易黒字を記録しています。高度経済成長期を経て、ドル円が360円だったのが100円割れにまで進んだのは、日米間で日本の方が貿易黒字(より多く儲けている)ことが大きな理由です。
■日米の金利差
アメリカは2007年まで政策金利が5%ほどある一方、日本ではゼロ金利政策が続いていました。この日米間の金利差を利用して、円を売ってドルを買う「円キャリートレード」が増えていました。しかし金融危機でアメリカの金利が引き下げられ、日米の金利差が縮小したことで、円キャリートレードが解消されて急激な円高が進みました。
つまり、米国の金利が日本よりも高いと円安が進み、金利差が縮小すると円高が進むのです。但しこれは、両国の経済状態が正常な場合の話です。将来、日本政府が財政破綻すれば、アメリカより日本の金利が高くなると思われますが、日本円の信用が失墜するので、円高ではなく大幅な円安になります。
■マネーサプライの相対的減少
簡単に言うと、アメリカでの通貨量が増え、日本では増えていないことが、円高圧力となるのです(相対的購買力平価とも見れます)。マネーサプライについては長くなるので、別のページに詳しくまとめます。
この他にも、日本企業のレパトリエーションの影響で円高になることもあります。
短期的には理論通りにいかないことも・・・
但し上記の円高要因のうち、金利差以外の点はあくまで長期的な傾向であり、短期的にはその限りではありません。例えば、バブル崩壊後の日本経済は世界でも最低レベルの経済成長率ですが、2008年以降に限って見れば、米ドル・ユーロだけでなく世界の全ての通貨に対して、急激な円高が進みました。これは最初に挙げたバラッサ・サミュエルソン効果とは全く相反する動きです。
一方で2国間の金利差については、どちらかの国が政策金利の引き上げ(もしくは下げ)が発表されると同時に、一気に為替レートは動きます。それどころか、景気の変動を先取りして、利上げ(利下げ)が発表される前から、既に為替がその方向に進む場合も少なくありません。
2007年のサブプライムバブルの崩壊や、2008年秋の金融危機時は、それぞれアメリカの政策金利が大きく引き下げられました。しかしFOMCで実際に金利引き下げが発表される前から、既に円高ドル安が急激に進みました。これは円キャリートレードを行っている投資家達が、FOMCで米国金利が引き下げられることを見越して、先回りでポジションを閉じる(円買いドル売り)を行ったことが理由です。
このように、ドル円レートなら日米の金融政策の変更、特に政策金利の変更は、瞬時にドル円の為替レートに影響を与えます。
※1:人民元は徐々に切り上がっているものの、中国政府の為替介入により、まだ実体経済の強さと比べて半分以下の上昇に押さえられていると見られます。
※2:年間輸出は10年間平均で64.4兆円、輸入は56.7兆円(財務省発表データより)。
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