レパトリエーションによる円高と投機筋
2011年3/11の東日本大震災を受けて、3/17の早朝、ドル円の為替レートは史上最高値である76円25銭を記録しました。しかしこれは、常識とは相反する値動きです。震災で日本経済がダメージを受けるのですから、普通に考えると円安になるはずです。多くの人が、この急激な円高を不可思議な現象だと思ったはずです。
なぜ深刻な地震被害が起きた国で、急激な通貨高が進んだのかというと、日本企業がレパトリエーションを加速させていること、そしてその動きに投機筋が乗っていることが理由です。
レパトリエーションとは、海外の資金を本国に戻させる動きのことです。日本企業の大半は3月末決算なので、この時期には企業が海外拠点から利益を日本国内に戻す動きがあるのです。ただでさえそういう時期なのに、震災の影響で資金難に陥ることを恐れて、レパトリエーションの金額がより一層大きくなったと考えられます。
そしてこの動きに、ヘッジファンドなどの投機筋が乗っかって、円買いを加速させたのです。為替トレーダーはデイトレードのような超短期売買が主流で、ほとんどがトレンドフォロー(順張り)型なので、円高の動きに乗ろうとしたのです。しかも彼らはレバレッジを掛けてトレードするので、動く金額が莫大になります。

実際に震災直後から、ドル円の為替レートはこれまでの最高値である79円75銭の手前でしばらく攻防が続きましたが、この「壁」を突破した瞬間から一気に円高は加速し、76円台に突入するまでに至りました。節目となるポイントを突破すれば、短期間にトレンドか加速するという、為替投機筋の特徴が如実に表れた瞬間でした。その後はG7各国で円売り協調介入することが決まった為、ドル円は80円台へ一気に戻しましたが、投機筋による円高圧力はまだ続いている兆候もあります(※注1)。
阪神大震災時も同じ理由で円高が起きていた
また前回、ドル円レートが最高値を付けたのも、1995年1月17日の阪神淡路大震災の後でした。震災後はわずかな動きでしたが、年度末で企業のレパトリエーションが増える3月から、一気に円高が進みました。そして4月19日に、79円75銭という市場最高値を付けました。

この時期は、円高が進む他の理由もベースにありました。94年1月に、1ドル=5.72元から8.72元へと人民元の為替レートが大幅に切り下げられたため、相対的に日本円が高くなる土壌がありました。一方で2011年の円高も、2008年の金融危機以降の各国の金融政策が、円高のベースにありました。アメリカFRBも、ユーロ圏のECBも、景気を下支えすべくマネタリーベース(通貨供給量)を激増させましたが、日銀は自分達の利権を守るため、マネタリーベースを全く増やしませんでした。このマネー量の変化は、相対的購買力平価に習えば、円高が進む要因となります。
円高が進む土壌があり、それにレパトリエーションと投機筋が重なれば、協調介入しても追いつかないほどの猛烈な円高が生まれるのです。かつては天災や戦争が起きると「有事のドル買い」と言われていましたが、近年は為替市場のマネーが増加&多様化しており、値動きを読むのが困難になりつつあります。
おそらく今後も、一見すると理由の分からない為替変動が起きることもあるはずです。しかし個人投資家は、原因不明な値動きには惑わされず、長期的視点での投資スタイルを崩さないことが重要です。 ※注1 余談ですが、2011年3月のドル円チャート、全て陰線(開始値より終値が低い)で終わるという現象が起きています。投稿執筆時(3/25)、日本では19営業日あったのが全て陰線という、偶然として片付けるには考えにくい確率です(約52万分の1)。円高トレンドを形成する投機筋の影響が、如何に強いかを示す例だと言えるかも知れません。
|