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人民元切り下げの影響

中国では2013年より、シャドーバンキング問題による経済不安が起きています(※注1)。そのため、近い将来に中国の通貨=人民元が切り下げられる可能性も高いので、その時起きる影響について考えてみます。

※注意書き;当サイトでは、人民元は将来的に切り上がるだろう、と述べてきました(⇒人民元の適正レートは幾らか?)。しかしシャドーバンキング問題の発覚と、中国社会の不安定さを加味すると、むしろ「切り下げ」が行われる可能性が高いと、考え改めました。
従って、中国株や新興国ETFなどへの投資では、短〜中期的には為替差損が生じるリスクが、非常に高まっています。中国への投資は、必ず、人民元切り下げの影響を考えてから行って下さい。

人民元切り下げが噂される理由は、シャドーバンキング問題の構造にあります。シャドーバンクとは、銀行が金融規制を回避する為に簿外で行っている融資の事で、中国の不動産バブルの元凶となっています。このバブルが今、臨界点に達しようとしており、シャドーバンクの破綻が起き始めています。構造としては、アメリカのサブプライムローン問題と酷似しており、大規模なデフォルトが起きて、中国経済に大きな悪影響を与えるリスクが高まっています。

しかし、不動産バブルを抑制するために金融引き締め(利上げ)を行えば、リーマンショック以降落ち込んでいる中国の経済成長率が、更に低下する事は避けられません。そうなれば、所得の抑制や失業率の悪化で中国国民の不満が爆発し、中東で起きた「アラブの春」のように、民衆主導で政府が転覆される可能性も十分あり得ます。これは、独裁政権である中国共産党が、最も恐れている事です。そのため中国政府は、金融を引き締める事で経済を立て直す事には、非常にセンシティブになっており、他の方法論を模索しているようです。

よって不動産バブルの影響を抑制しつつ、経済成長率を高く保つ為には、人民元の切り下げこそが、最も確実な方法となります。為替レートを切り下げれば、輸出競争力が増すので、外需で経済成長を底支え出来ます。また、不動産に向かっていた投資マネーの矛先を、他へ分散させる事にも繋がるからです。

中国では何度も為替政策が変更されてきた

中国では人民元の誕生(1949年)以来、広義で言う所の「固定相場制」が続けられていますが、米ドルとの為替レートは何度も変更されている〜即ち「切り上げ」や「切り下げ」がくり返されて来た歴史があります。余り知られていませんが、1973年のスミソニアン協定廃止(先進国の変動相場制開始)までは、人民元も1ドル=2.46元で固定されていました。

その後、人民元も通貨バスケット制へと変更され、1ドル=1.5元まで上昇しますが、1980年からは徐々に切り下げが始まります。特に酷いのが1994年1月の変更であり、1ドル=5.72元から8.28元へと、約30%も一気に切り下げられました。そして現在は、再び「切り上げ」の時期に入っています。2005年7月より人民元はドルペッグから管理フロート制へと変更され、当時の8.27元から6.07元(2014年2月現在)まで、30%以上為替レートが上昇しています。

そしてこれらの為替制度の変更は、中国政府の利害に基づき、恣意的に行われています。人民元は、国際金融のトリレンマの3項目の内「自由な資本移動」を放棄する事により、為替レートを意図的にコントロールされています(※注2)。その為、中国政府の独断だけで、為替レートの切り下げ・切り上げが行えるのです。

無論、人民元の切り下げを行えば、諸外国(特にアメリカと日本)からの反発は強まります。しかし中国共産党政権にとっては、外圧よりも国内情勢の安定化の方が遙かに大事です。シャドーバンク〜不動産バブル崩壊が起きれば、その影響を最小限に抑えるカンフル剤として、人民元の切り下げが行われる可能性は、大いにありえます。

2014年以降、実際に人民元の切り下げが行われた場合、日本にとっては円高が起きるので、輸出産業に大きな影響が及ぶはずです。しかし人民元の切り下げは、中国政府にとっても諸刃の剣です。アメリカや東南アジア諸国から孤立する事になりますし、国内ではインフレ率が高まるのは必至です。貿易黒字を稼いでも、通貨安では海外へ再投資する意欲は失せますから、国内でマネーがだぶつき、不動産バブルを更に助長させるリスクすら考えられます。

人民元の切り下げは、所詮、中国政府が内乱を恐れた急場凌ぎの政策に過ぎず、長期的には中国経済にマイナスの影響を与えるでしょう。政府もそのリスクは理解していますが、それでも切り下げの噂が絶えないほど、中国経済の基盤は大きく揺らいでいるのです。中国株への投資は、当面控えた方が賢明かも知れませんね。

 

※注1;詳細は、姉妹サイトであるシャドーバンキング解体新書をご覧下さい。
※注2;国際金融のトリレンマとは「自由な資本移動」「独立した金融政策」「為替の固定相場制」の3つは同時成立しないという、為替の絶対理論の事。即ち、固定相場制を敷く為には、中東諸国のように金融政策を放棄する(アメリカの金融政策に合わせる)ことか、中国のように資本移動を制限するか、どちらかが不可欠となります。

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