「人民元の切り上げ」という意味
中国の通貨=人民元は、過去に何度も為替レートが切り上げられたり、逆に切り下げられたりしてきた、長い歴史があります。しかし「切り上げの意味がよく分からない」人も少なくないようなので、分かりやすく解説してみます。
人民元の切り上げとは、元の通貨価値が上がることを意味し、為替レートが上昇します。例えば、2014年2月現在、1元=16.8円程度です。人民元が切り上がるというのは、1元が20円とか30円とかになる事を表します。「元」を得る為に必要な「円」が増えたという事は、元の価値が上がった=元高(切り上がった)となるわけです。
この事は、為替レートを2つのお金どうしを「物々交換する」と考えれば、分かりやすいです。魚一匹得るのに大根一本で交換できていたとして、それが二本必要になったとすれば、魚の価値が(不漁とか、買いたい人が増えた、等で)上がった、もしくは大根の価値が下がった事を意味しますよね。
通貨もそれと同じです。それまで1人民元を得るのに16円を差し出していたのが、20円出さないと交換してくれなくなったとすれば、元の価値が上がった(もしくは円の価値が下がった)事を意味しますよね? だから「人民元高」や「元の切り上げ」というのは、他の通貨との価値が相対的に上がる事を指すわけです。

日本円に対する計算は、上記のように「物々交換」と考えれば簡単です。一方、米ドルに対する人民元の切り上げは、少しひねらないと意味が分かりにくいです。というのは、円に対しては「1元=○○円」という風に、元の方を『1』と固定して表記しますが、ドルに対しては「1ドル=○○元」というように、ドルの方を『1』に固定して表記するからです(※注1)。
従って、元の数値が小さくなるほど「元高(切り上げ)」の意味になります。
例えば1994年1月に、1ドル=5.72元から8.28元へと為替レートが変更されましたが、これは人民元の切り下げとなります。逆に2005年6月から2013年末にかけては、1ドル=8.27元から6.07元になっていますから、これは元が切り上がっていることを意味します。
1元=16円 ⇒1元=20円 ;人民元が切り上がった
1ドル=8元 ⇒1ドル=6元 ;人民元が切り上がった
このように、日本円と比較する場合と、米ドルと比較する場合では、基準(レートを『1』とする方)となる通貨が逆になるので、切り上げの意味も逆になります。
「切り上げ」は中国政府が為替レートを操作しているから起きる現象
もう一つ、初心者がよく分からない事として「なぜ切り上げが起きるのか?」という疑問があると思います。為替レートは本来、世界の金融マーケットでの取引によって、需要と供給で決まります。日本円も米ドルも、為替レートが「上昇する」ことはあっても、「切り上がる」なんて表現が使われる事はありません。切り上げという表現は、本来ならおかしいはずです。
このような表現となる理由は、人民元という通貨が、金融マーケットで自由に取引できるものではなく、中国政府によって完全にコントロールされたものだからです。ご存知の人も多いでしょうが、人民元は中国政府による規制(※注2)と為替介入により、本来の為替レートより割安に保たれています。そうすることで、莫大な貿易黒字を獲得できるからです。
この為替コントロールに対し、アメリカや日本も大きく反発していますが、独裁国家である中国はそれを聞き入れる気はありません。むしろ大きな外交カードとして、絶対に手放せない利権です。よって今後も中国共産党の独裁政治が続く限り、人民元の為替コントロールは続き、切り上げや切り下げが突然行われる事が続くでしょう。特に2014年以降は、シャドーバンキング問題による経済不安もあることから、人民元の「切り下げ」が行われる可能性が高まっています。
※注1;ドルを『1』とする理由は、米ドルは世界の基軸通貨なので、ドルを基準に他の通貨と比較するのが金融の世界標準だから。
※注2;人民元という通貨は、外国人が勝手に購入する(両替して持ち帰る)ことも、中国人が海外へ持ち出す事も出来ず、一定金額までと規制されています。専門用語で言うと、中国は『国際金融のトリレンマ』のうちの『自由な資本移動』を放棄する事で、為替レートをコントロールしているのです。
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