米国の利上げが株価や為替に与える影響
アメリカの金融政策を司るFRBは、米国景気の回復基調を受けて、政策金利(FFレート)を引き上げるタイミングを伺っています。アメリカ経済は雇用などの観点から好調であり、S&P500指数もダウ平均株価もリーマンショック前の高値をとっくに更新しています。中国やブラジルなど新興国経済の急減速に配慮して、利上げを見送り続けてきましたが、米国内のインフレも進みつつあり、2015年末のFOMCでいよいよFRBが利上げに踏み切るだろうと、市場では予想されています。
しかし一般的には、利上げは株価にマイナスに影響する、ドル円相場は円安ドル高に進むと言われていますが、実はそう簡単な話でもありません。アメリカが利上げしていくと、株価や為替にどのように影響したのか、過去のデータから関連性を検証してみます。
まず、米国の平均株価(S&P500指数)への影響ですが、利上げ後も簡単には株価は下落しないことが、過去の統計からは明らかです。下のチャートはS&P500指数と米FFレートの相関をグラフにしたものです。FFレートが利上げ基調の時期(1994〜95年、1999〜2000年、2004〜06年)も暫くは株価は上昇を続けていることが分かります。FFレートと株価には、大きな関連性は無いと言える訳です。

これは観点を変えれば明らかなことで、景気が過熱している(=株価も上昇中)からこそ、FRBは利上げで抑制しようとしている訳です。当然ながら景気がいきなりクラッシュするほどの強い抑制は掛けず、徐々にソフトランディングさせようとするので、利上げから1〜2年はまだ景気も株価も上昇基調は続くのです。
特に現在はリーマンショック後のゼロ金利政策が長らく続いていたため、景気が腰折れするほどの金利に到達するには、相当に時間が掛かります。ですから、2015年末に予定通り利上げが行われたとしても、特に関係なくアメリカの株価の上昇基調は当面続くだろうと予想されます。
アメリカ利上げでも円安ドル高になるとは限らない
次に為替レートとの関連を見てみます。下のチャートはドル円相場と米国FFレートとの比較です。アメリカの金利が上がれば、円キャリートレードの増加で円安ドル高が進むという見解が一般的ですが、チャートを見る限り、相関性が高いとは言えないことが分かります。

1994〜95年や1999〜2000年あたりは、アメリカが継続的に利上げしているにも関わらず、為替レートは円高ドル安が進んでいます。1994年は人民元の大幅切り下げ(※注1)の影響が、2000年頃はITバブル崩壊でアメリカ景気が減速し「ドル離れ」が進んだことが、それぞれの原因です。
為替レートを決定するのは、両国の政策金利の変動だけではなく、貿易収支や国内情勢、将来の見通しなど様々な原因で動きます。米国が利上げしようと、別の大きな要因があれば、逆に円高ドル安が進むことは十分あり得ます。端的に言うと、為替相場はサプライズが大きいほど影響も大きく、予想されている利上げのようなものは、既に相場に織り込まれているので為替レートへはほとんど影響しません。FRBの金融政策に注目するのではなく、マーケットがどれだけ織り込んでいるか?という「市場予想」こそが重要なのです。
FF金利を司るFRBは、リーマンショックのような緊急時以外は、基本的に市場との間接的対話を通じて金融政策を変更します。具体的には、利上げや利下げが行われる前に、議長声明でそれをにおわせたり、関係者がメディアとのオフレコの会話で漏らしたり(一種のリーク)します。金融政策変更のショックを和らげるよう、情報を小出しにして、徐々にマーケットに織り込ませていくのです。
当稿執筆時(2015年11月)には、市場では既に12月か遅くとも2016年春には、アメリカは利上げを行うことは「織り込み済み」な訳です。従って、予想通り利上げが行われたとしても円安要因にはならず、為替相場は(瞬間的には変動すれど)終日単位で見れば大した影響は出ないと思われます。
※1:1994年1月、江沢民とクリントンとの密約により、人民元が1ドル=5.72元から8.28元へと約30%も切り下げられる。ドル円には直接影響しない要素だが、日中の貿易力が大逆転し、日本が不況に陥ることで間接的に円高を促進した。
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