ジェレミー・シーゲルの嘘〜中国株はマイナスではない!
インデックス投資家の中には、新興国株に懐疑的で、ポートフォリオにあまり組み入れない人が少なくありません。彼らがそうする理由の1つに、インデックス投資の「教祖」の一人であるジェレミー・シーゲルの存在があります。彼の著書「株式投資の未来
」に、中国のGDPは大幅に増えているが、株式リターンが大幅にマイナスであると主張しているからでしょう。
具体的には、上記書籍の262ページに、1992〜2003年初頭までの間、中国株に投資した1000ドルが320ドルに目減りしているというグラフが載っています(年率−9.1%)。バブル崩壊後の最悪期であった日経平均ですら、1992〜2003年の変動は年率−8.4%でした。果たして本当に、それほど中国株は酷かったのか?実際のデータで検証しました。
シーゲルのいう「中国株」が、本土株である上海総合指数なのか、それとも外国人向けの香港市場(ハンセン指数)なのか、具体的には明記されていません。また、前後のページから考察するに、このグラフは「米ドル換算のリターン」であると想像できますから、同期間の大幅な元安=ドル高進行を勘案すれば、米ドル建てでは大幅な為替差損が発生しています。しかし、香港・上海いずれの値動きを調べてみても(※1)、また為替レートの変動を加味しても、この主張は明らかに偽りであることが判明しました。
まずハンセン指数は92〜03年の期間で2.01倍に増えています(年率5.94%)。この間の米ドル=香港ドルの為替レートは1.932%の減価です(年率−0.16%)。なので、米国人が投資した場合の年率利回りは+5.78%となり、1000ドル投資していれば1962.6ドルになっています。
一方で上海総合指数はこの間に4.79倍(年率13.9%)になっており、為替レートの減価(1ドル=5.51元から8.28元へ、約67%の減価(※2))を含めても、トータルでおよそ3.2倍に増えています。1000米ドル投資すれば、3200ドルになっている計算です。

上のグラフは、1992年初頭を1とした、両指数の値動きグラフです。彼の主張では、この間の中国株のリターンが「マイナス」だと書いているのに、実際はどう計算しても大幅なプラスなのです。中国株に関するシーゲルの主張は、現実とは矛盾していることが分かります。
シーゲルがなぜ、このような嘘を付いているのか、はっきりしたことは分かりません。シーゲルは「GDP成長率と株価の相関は無い(※3)」、また「新興国投資は重視すべきではない」ことを主張していますから、結論ありきの後付け理論なのでしょう。しかし、現実とは正反対の結論ですから、これはポジショントークどころの話ではなく、詐称の域だといえます。
当サイトでは、シーゲルの書籍にあるデータを何度も引用しています。筆者もシーゲル本の愛読者であり、基本的には彼をリスペクトしています。しかし、新興国株に対する主張の部分だけは、明らかに現実とは異なる「嘘」を付いており、反論せざるを得ません。
当サイトで何度も述べていますが、投資書籍や著名投資家の主張というのは、バイアスが掛かっていたり、自分の利害を優先するポジショントークであることが非常に多いです。特に極端な主張だったり、データの定義が曖昧である場合は、必ず「嘘ではないか?」と疑ってみるべきです。貴方の大切な資産を運用する上で、彼らはその責任を持ってくれないのですから。
※1:各株価指数データは、中国版のヤフーファイナンスを参照。
※2:上海総合指数には米ドル建てのB株も含まれるが、より厳しい(シーゲルの主張に合う)前提とする為、全て人民元建てとして計算。
※3:実質GDPとの関連は薄いが、名目GDPと株価は長期的には相関が高い。
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