シャープの経営危機まとめ(チャートと年表)
2016年3月、シャープが経営破綻の危機に立たされています。台湾企業=鴻海からの出資(買収)が決まった直後に、偶発債務の存在が発覚して、鴻海側が出資見直しを検討するなど混乱が続いています。
そもそもシャープが倒産危機に陥った原因は何なのでしょうか?余りにも色んな事件が多すぎて、状況把握した記事が無いようなので、当サイトがシャープの経営危機までの道のりと、時系列ニュースをまとめて分析してみました。

まず主なニュースと株価推移を比較したチャートです。シャープにとってプラスのニュースが青文字、増資や不祥事など悪いニュースを赤文字で表記しています。更に詳細なニュースは、後述の時系列年表にまとめました。
シャープが経営危機に陥った原因は、2008年のリーマンショックからの世界的不況と、2009年に成立した民主党政権による「朝鮮半島に国を売る気か!」とまで揶揄された、亡国円高政策(非金融緩和)です。但し、不況や円高などのマイナス材料は、他の日本の輸出企業にとっても同じことです。シャープの経営危機が特に深刻だった理由は、売上のほとんどがコンシューマ分野という、不況に弱い事業構造だったからです。
パナソニックや日立や東芝など多くの家電企業は、コンシューマ向け家電を縮小し、法人向けのもの作り(管制システム、医療機器、発電関連など)へと事業の軸足をシフトしていました。近年ではコンシューマ家電は薄利多売であり、人件費の安い新興国企業〜特にサムスン・LGなどの韓国勢に歯が立たなくなってきました。よって、コンシューマ家電を縮小して、利益率の高い法人向け事業に注力するのが正解でした。
ちょうど、80年代に日本メーカーが世界の家電を席巻した後、世界最大の電機メーカーだったGE(ゼネラル・エレクトリック)が家電を捨て、航空機・鉄道や医療機器・原発など、もの作りを法人向けに絞り込んで復活した際と同じですね。
パナソニックなど日本の電機メーカーの多くが同じ戦略を取りましたが、ソニーとシャープは元々コンシューマ事業に偏りが強く、BtoBのビジネスに弱かったため、初動が遅れて赤字拡大の原因となりました。特にシャープは「世界に誇る!」と自負した液晶パネル生産拠点=亀山工場が、むしろ最大の不採算部門になったことが裏目でした。
結局シャープは、トップシェアのサムスンですら利益が出ないという、世界で最も過当競争な液晶開発部門に拘りすぎたのが、最大の敗因です。アクオスやイグゾーなど製品は高品質でしたが、コスト面で惨敗していることや、そもそも消費者が4Kテレビなど求めていないというニーズのはき違えがあり、赤字を垂れ流す原因となりました。
時系列で見る、シャープ経営が破綻するまでの道のり
次に、シャープの経営危機を年表形式に時系列でまとめました。掲載しているのは、主な項目のみで、中間決算の業績下方修正など、書き出すときりがないような事例は省略しています。
シャープ経営破綻の歴史年表 |
年月 |
分類 |
出来事 |
2008年9月 |
外的要因 |
リーマンショック |
2009年1月 |
経営 |
堺工場が稼働開始 |
7月 |
外的要因 |
民主党政権が成立
以後、円高が加速し日本の輸出企業が大ダメージを受ける |
2010年9月 |
商品 |
電子書籍端末ガラパゴス発表
名前の時点で失敗していると話題になるが普及せず・・・ |
2011年1月 |
経営 |
亀山工場にアップルが1000億投資し専用ライン設立
世界的勝ち組=iPhone部品の受注に沸いたが・・・ |
3月 |
外的要因 |
東日本大震災が発生
レパトリエーションにより1ドル=76円台まで円高が加速!
日本の内需も壊滅し、シャープの経営も急激に悪化 |
2012年1月 |
経営 |
経営危機が表面化 |
3月 |
提携や出資 |
台湾の鴻海と業務提携 |
4月 |
経営 |
片山幹雄社長が退任 |
8月 |
経営 |
来期予想の下方修正と5千人のリストラ発表
以後、業績の下方修正とリストラは恒例行事といえるまでに頻発化する
(以下、細かな下方修正は省略) |
11月 |
外的要因 |
格下げラッシュ
金融各社がシャープの格付けを下げ、CDSから見た倒産確率が90%超に |
12月 |
提携や出資 |
クアルコムから100億円の出資を受ける |
12月 |
不祥事 |
プラズマクラスターショック
消費者庁が「プラズマクラスターの効能表記は不当」と再発防止命令を下す |
12月 |
外的要因 |
自民党へ政権交代
安倍内閣&黒田日銀の金融緩和政策により円安が加速、日本の輸出企業の大半は業績が急回復していくが・・・ |
2013年1月 |
経営 |
iPhone不振で亀山工場稼働率激減 |
3月 |
提携や出資 |
サムスンから103億円の出資受ける
最大の敵であるはずの韓国企業への身売りに非難が殺到 |
4月 |
商品 |
熱中症警報機能つき扇風機(4万円)を発売
無意味だと馬鹿にされる |
5月 |
商品 |
お掃除ロボットCOCOROBO(ココロボ)発表
会話も出来る?という売り。ルンバのパクリだと揶揄される |
10月 |
提携や出資 |
公募増資で1090億円を調達 |
10月 |
提携や出資 |
第三者割り当て増資
マキタ、LIXIL、デンソーの3社から計170億円を調達 |
11月 |
提携や出資 |
再び第三者割り当て増資
112億円を調達、何とか資金繰りショートを回避する |
2014年5月 |
決算 |
2014年3月期決算で黒字化達成
経営危機後初の黒字に沸くが・・・ |
8月 |
提携や出資 |
パイオニアとの資本提携を解消 |
2015年5月 |
決算 |
15年3月期決算で2000億円超の赤字に転落
債務超過寸前に陥る |
6月 |
提携や出資 |
銀行に対し優先株発行、2250億円を調達 |
6月 |
経営 |
資本金5億円への減資
あえて中小企業に転身するという前代未聞の裏技を披露 |
9月 |
経営 |
本社ビルを売却 |
10月 |
商品 |
二足歩行型ヒューマノイド・スマホ「ロボホン」発表
意味不明だと馬鹿にされる |
11月 |
不祥事 |
全社員対象に自社製品の購入のノルマ設定 |
2016年2月 |
提携や出資 |
鴻海vs産業革新機構の買収合戦
高値で外資に売り渡すか?安値の公的資金か?の狭間で揺れる |
3月 |
商品 |
蚊取り空気清浄機を発表
倒産の危機であることが分かってるのか?と呆れられる |
3月 |
提携や出資 |
鴻海の7000億円での買収が決定!
これで倒産は免れたと思われたが・・・ |
3月 |
不祥事 |
偶発債務の問題で鴻海の買収案がストップ
・・・なぜそんな重大事項を隠蔽していた! |
こうして年表を見てみると、運が悪かった側面もありますね。特に亀山工場でiPhoneパネル専用ラインを製造して、さあこれから・・・という時に東日本大震災が発生するという間の悪さは、気の毒な話です。
しかしシャープ自身にも「こりゃ経営が破綻するのも当然だな」と言わざるを得ない要因も多いです。電子書籍端末=ガラパゴスを筆頭に、熱中症警報機能つき扇風機だの、蚊取り空気清浄機だのと、悪ふざけのような商品を数多く開発しています。本気で経営再建するつもりがあるのか、疑問の声が上がるのも当然です。しかもプラズマクラスターのように、効果が疑わしいと判定された商品もあった訳ですから、モノ作り企業として致命的欠陥です。
そしてようやく、再建の切り札となりそうだった鴻海との買収話も、決着がついてから偶発債務が発覚し、ご破算になりかねない事態を招いています。都合の悪い事を隠蔽・先送りにする、典型的な大企業病ですね。
増資や減資を駆使するなど、何とか倒産を免れてきたシャープですが、小手先の延命策ではこの先の再建は不可能です。結局は商品開発の戦略が間違っている事と、その場凌ぎで問題を先送りにし続けた企業体質を変えない限り、経営破綻は免れられないでしょう。
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